The fastest R.

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せっかくインドに来たもので、インド映画を観に映画館まで行こうと、
サイクルリキシャー(自転車で引く人力車みたいなもの)に乗ったら、

道路がものすごく渋滞してて、もう進まない進まない。
これはもう歩いた方が早いでしょって感じのスピードです。

そもそもインドは人がものすごく多い割に、インフラが追いついていないから、
狭くて舗装されていない道に、人と車とバイクとリキシャーと牛と犬とウ○コが入り乱れて、
もう動線なんてぐっちゃぐちゃで、日常的に渋滞しているわけです。

とはいえ、そこに不満を言ったところで何も解消されないので、
ひとまず、この超鈍行サイクルリキシャーに揺られて映画館へ。

映画館に着いて、観たい映画の上映時間を確認してみたら、
次の上映まで2時間以上あるという。

今日はせっかく映画を観て、そのあとガンガーに行って夕陽を見るという、
パーフェクトプランを組んでいたのに、

2時間以上待って、そこから2時間近い映画を観ると、
とっくに夕陽は沈んでしまって、夕陽どころか真っ暗になってしまうではないですか。

それで私はせっかくここまで来たので、
映画を観ようと、時間を潰していたのですが、

しばらくして、飯を食いながら空を見上げると、
結構いい感じで雲が出ていたので、

今日は夕景もきれいだろうなぁと思い始め、
もうこれ以上無いぐらい悩みに悩み抜いた、1分間ののち、

映画館を去ることにしました。

自分が本当に映画が観たかったのか、激しく疑問です。

さて、変に時間を潰してしまったもので、
今度は夕陽にも間に合わなくなってしまいそうな時間になってしまい、

道に出て、早速オートリキシャー(小型の三輪自動車みたいなもの)を探したのですが、
私が頭の中で設定した運賃40ルピーだと、なかなか交渉に応じてくれず、
どの運転手も「いや50ルピーだね。」の一点張り。

あと10ルピー(約20円)ぐらい払ったらいいじゃねーか、
と言われれば、全くもってその通りで、

実際それを払ったところで痛くもかゆくもないわけですが、
まぁ一応、そういう駆け引きも楽しみたいわけです。

で、なかなか見つからない中、私の横に1台のサイクルリキシャーが近づいてきて、
「40ルピーで行ってやるぜ。」と言うのです。

いやいや、そりゃ40ルピーだろうけどさ、
自転車のスピードじゃあ、どうにも日没には間に合わないでしょ。。

周りにいたオートリキシャーの運ちゃん達も、

「サイクルリキシャーで40ルピー払うのか?オートで50ルピーなのに?
そんなの馬鹿げてるよ。」

とニヤニヤして話しかけてくるものの、
サイクルリキシャーのおっちゃんは1人、真剣な顔。

そうすると、サイクルリキシャーのおっちゃんは、
「何だよ、値段が気に入らないのか?なら30ルピーで行ってやるよ。」と言うわけです。

いやいや、おっちゃん。そうじゃなくて。。

私「30ルピーは嬉しいけど、時間がなくてさ。夕陽が見たいのよ。」

おっちゃん「20分で行ってやるさ。」

私「いやー、20分でも微妙だしなぁ。」

おっちゃん「なら15分で行ってやる!」

私「15分。う~ん。。」

行きの渋滞を思い出すと、とても15分で着くようには思えず、
どうみてもオートリキシャーに乗った方がマシに思えた私は、

やっぱりオートリキシャーを探そうと周りを見渡すと、
さっきまで居たオートリキシャーの姿が無くなっていて、

横にはサイクルリキシャーが1台。
おっちゃんの真剣な顔。

おっちゃん「いいから、乗れ!」

乗れって言われてもなぁ・・・

しかしよく考えると、こうやってグダグダしてると、なおさら時間はなくなっていくわけで、
だったらもうイチかバチか乗ってみるかと思い直して、

このサイクルリキシャーに乗り込んだのです。
ほとんど希望を持たずに。

でも、おっちゃんは真剣そのもの。

なぜならおっちゃんも大見得切った以上、
何としてでも15分で着いてやると意気込んでいたのです。

そしていざ走り出してみると、明らかに不可能に見える渋滞した道の中を、

長年培ってきたドライビングテクニックによる絶妙なライン取りで、
人や車をすり抜け、オートリキシャーさえ追い抜いていく。

時に大声を張り上げて、周りのリキシャーを避けさせ、
時に後ろからの壮絶なクラクションにも耳を貸さず、

ひたすら最速のコースを辿っていくのです。

気がつけば、私が乗っているサイクルリキシャーは、
この道で一番早い乗り物となっていました。

おっちゃんは一度もサドルに座ることなく、ずっと立ち漕ぎ状態で汗を流し、

そして見えてきました目的地。

時計に目をやれば、無理と思えた15分をはるかに凌駕するタイム、
10分ちょっとで到着間近。

後ろの席から、「You’re a good driver!」と叫ぶと、

おっちゃんは何てことねぇよとばかりに、すっと右手を上げ、誇らしげな横顔。

これがサイクルリキシャーの意地。

オートリキシャーなんかに舐められてたまるかよ。とでも言わんばかりに。

リキシャーが止まったあと、私はおっちゃんに運賃の30ルピーを渡す。

私はチップ制度があまり好きじゃない。

例えばレストランに行って、何だかよく分からない、
大したことのないサービスのウェイターに、
何故お金を払わなければいけないのかと疑問に思う。

そりゃ、そういうシステムなのは理解しているけれど。
義務的に払わなきゃならないような仕組みに意味を感じない。

だけど、私は良い仕事をしてくれる人にチップを払うのが好きだ。

最高の仕事をする人に、それ相応の対価を払うのは気持ちがいい。

私はチップとして財布からもう10ルピーを私が渡すと、

「俺の今日の仕事は、50ルピーだろ?」と冗談交じりに笑うおっちゃん。

目的地が見えてきたあたりから、50ルピーあげようと決めていた私は、

ニヤリとして、もう10ルピーを、4枚の10ルピー札の上に置く。

そしておっちゃんの、これ以上ないぐらいの満面の笑み。

おっちゃん、

あんたはバラナシで一番のドライバーだ。

そして私はガンガーから夕陽を見た。

 

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