流れ着いた先は鬼ヶ島だった。 その弐

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流れ着いた先は鬼ヶ島だった。 その壱

翌朝、起きると、おばちゃんが立ってこっちを見てました。

笑顔で「おはよう」と話しかけられた後、
こちらに向かってきて

私のベッドの目の前まで来ると、ベッドを指差して言うんです。

「ここ、座っていい?」

これがもし金髪のカワイ子ちゃんなら、
勢い余って「YES, SIR!」と返事するところなんだけど、

私の目の前には、そんなファンタジーなど存在しない。
この世にファンタジーなど存在しないのだ。

いま悟った。

いま私の目の前にあるのは、
隣に座って私の肩をさすりながら、ニヤニヤしているこのおばちゃんが、
実がワキガだったという、新しい事実。

そういえば、ここ最近鼻づまりだったこともあって、
離れて話していた時は気づかなかったんだけど、
隣に座られて、初めて気づいた。強烈な匂い。

おばちゃんはこう言った。

「私は今日このホステルを出ないといけないの。1泊しか予約してなかったから。」

そういえば今朝おばちゃんとホステルのオーナーが、
口論しているような声が聞こえていた。

おばちゃんは飛び込みでこのホステルに泊まったから、1泊しか予約をしておらず、
今日以降のベッドは他の客で埋まっているから泊まれない。

そう、オーナーから諭されていた。

そうなんだ、と思い周りを見渡してみたものの、
ベッドの空きはいくらでもありそうだった。
念のため、隣の部屋のベッドも覗いてみたものの、こちらも同様。

どうやら、遠回りな言い方をされているだけで、
本当は匂いのせいで、他の客から苦情が出て、追い出される形になった模様。

おばちゃんは、私の肩をさすりながらこう言った。

「あなたにまた会いたい。」

私は完全に無の境地を会得した気がする。

あと、去り際に投げキスされたけど、
まるで古武術の使い手かのように、軽やかにかわした。

毎日が命のやり取り。

おばちゃんが宿から去った後、2時間ぐらいの間をおいて私は外に出かけた。

今日はアルベロベッロという町に行く予定なのだ。

おばちゃんの呪縛から解き放たれた私は、
足取りも軽やかに、駅前のインフォメーションセンターに向かった。

しかし、そこに一歩足を踏み入れた瞬間、

何か、嗅いだことのある匂いがした。

1秒経って、顔を上げ、

2秒経って、おばちゃんの背中を目視し、

3秒経って、インフォメーションセンターを出た。

あぶねー。

恐ろしくなったので、とりあえず飯でも食おうと思い、
その辺にあった軽食屋に入って、1時間ほど潰した後、

インフォメーションセンターはやめて、直接駅に向かった。

一番奥のホームまで行って、
切符売り場までもうすぐという位置で、

目の前におばちゃんが居た。

コピーロボットとか、使ってます?

おばちゃんは私を見つけるなり、

「また会ったね!」って。

逆の意味で「YES, SIR!」と言いたいぐらいですよ、教官。

嘘でしょ?と自分でも信じられなかったけど、
何度見ても、そこに居るのはあのおばちゃん。

しかもおばちゃんの顔をよく見ると、目ヤニの量がハンパない。
あと、鼻毛の量もハンパない。

おばちゃんの体調は、本当に大丈夫なのか?

鼻毛なんてもう、「あ、鼻毛出てるよ、あはははは。」みたいに、
軽々しく忠告できる代物じゃないですからね。

1本とか2本とか、そんな生温いもんじゃなくて、数十本単位で出てる。
しかも出てるだけじゃなくて、それらが絡み合って、
一丸となって、何かを作りあげようとしてる。

今年の学園祭、絶対盛り上げようぜ!

みたいな意気込みすら感じる。

形としては、ドリルみたいになってた。
いや、もっとたぶん創造的なもの。

あ、サグラダファミリアの、あの尖った部分とか?

そういうのが、両方の穴から1本づつ、下に向かった突き出してた。

鼻毛だけ、鬼の角みたいになってた。
ここは、鬼ヶ島なのか?

駅のホームで、そのおばちゃんはもう1人と一緒だったんです。
一緒にいたのは、イタリア人の若くてかわいい女の子。

その子は、イタリアでは珍しく英語が喋れる子だったので、
これは不幸中の幸いだと思い、質問してみました。

「ねぇ、アルベロベッロの行き方知ってる?」

「知ってるよ! あ、そうそう、この人も今から行くんだよ!」

といって、おばちゃんを指差したのです。

おばちゃんは満面の笑みで振り返り、

「あらそうなの?一緒に行きましょ!」

と。

いや、

「明日行くんです。」

日記:

今日はアルベロベッロに行きたかったのに、なぜか鬼ヶ島に流れついてしまいました。

鬼にかこまれて、HPがなくなったので、宿屋に帰りました。

僕もがんばりましたが、まったく勝てませんでした。

鬼はすごいと思いました。

アルベロベッロは、また明日がんばります。

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