世界最強の男

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ボゴタの街を歩いていると、男の声が耳に入った。

「ハポネス?」

ハポネスとは、スペイン語で日本人のことを指す。

声の方を向くと、見知らぬアジア人がいた。
彼がもう一度尋ねてきた。

「ハポネス?」

そうだよ、と答えると、嬉しそうに話しかけてきた。
アジア人をあまり見かけないから、親近感がわいたのだろうか。

彼は台湾人だった。名前はヤン。
身長は165ぐらい、眼鏡をかけていて、少し小太り。
お洒落には興味がないと一目で分かる、薄汚れたズボンを穿いていた。

話を聞いてみると、彼は中米のとある国で大使館に勤めており、
休暇を利用して、コロンビアに来たのだと言う。

話の経緯は忘れてしまったが、出会って5分も経っていないのに、

「ところで、風俗には行ったの?」

と聞かれた。
ある意味、まっすぐな奴だ。

「いやぁ、それが興味はあるんだけど、まだ行ってないんだよね。情報もないし。」

すると、ヤンはニヤリとしてこう言った。

「アイ ムーチョ インフォルマシオン!(情報なら沢山ある!)」

そういって、ヤンはカバンの中から紙の束を取り出した。

得意げな顔で、ほら見ろとばかりに差し出すので見てみると、

A4サイズの用紙にプリントアウトされた風俗情報が数十枚。
そこには、店の名前、住所、営業時間、女の子の人数、料金、
そして最も良い時間(より女の子が多く出勤し、かつ客が多くない時間帯)までが、
事細かに書かれ、それが店の種類ごとにびっしりと並んでいた。

「何これ!?何でこんなの持ってんの??」

「ネットで買ったんだよ。この情報は20ドルだった。
俺は世界中の風俗情報を持ってる。」

すごい、すごすぎる。

こんな奴が世の中にいるなんて。
私はどれだけ情弱だったんだ。

・・・

「どう?今夜どっか一緒に行ってm」

「うん!」

食い気味で返事をして、同じ場所で、夕方6時に待ち合わせることにした。

約束の時間に行ってみると、ヤンは先に待っていて、
こちらに気づくや、手を振って合図してくれた。

合流するや否や、ヤンは口で「パゥッ!パゥッ!」という小さな破裂音を発しながら、
両手でおっぱいの形を形づくる動作を何度もやってた。

まぁ要するに、「さぁこれから、パイオツカイデーのネーチャン探すで~」
みたいなニュアンスだと思う。

てか、何度も何度も「パゥッ!パゥッ!」って言いながら、こっちを真顔で見てくるヤン。

たぶん私が女だったら、「この人のこんな真剣な表情見たことない」とか言って、
うっかり惚れたりするのかもしれないが、まるでそんなことはない。

               ,,,..—、
          ,,ィニニヽ彡彡彡彡ミニ三ミ、
        ,ィミシ彡ミミ、゙彡彡彡三ミ、彡イ三;ヽ
       {彡y彡彡y彡ミ 彡彡三三彡Y彡三ミ}
       {ツ彡シィイイ彡ミ 彡三ミミシシヾミ三シ
       (彡彡イ/////ノ〃〃ハ;ヾヾミ三彡Y 三)
       {彡y///イ/     ミヾヾミ三彡Yシイ
        Y((( /       `ミミ三三彡イミ、
         !、,,,_     _,,,..—   ゙ミ,ィイi }ミ三;シ
          }T゙’tゝ .:´ ィ弋カ’-    Y/5 /i川イ
         !  ̄ .i :.   ̄ …    ーノミト、シ
         ‘,:.:. ,’ ::.    .:.:.:.:    iイミ三ソ
         ’,  ヽ ー        !::ミミ三リ
          ヽ. ゙’三‐‐‐’`     ノ :::iーーー’
           `、      , ’  : :’,
             ` ー-┬‐ ‘     : :ヽ
                  |        : : \
              ___….l:: ::  __ , —.ヽ

         コッチ・ミンナ [Cottch Minna]
           ( 1969~  イタリア )

でも、あまりにもしつこいので、私も「パゥッ!パゥッ!」って返したら、
満足そうにしてた。

何の合言葉だよ。

ともかく、目的の風俗街まで歩いていくことにしたのだが、
よくよく考えてみると、まだボゴタには土地勘がなく、不安だったので、

ヤンに聞こうと思った矢先、

彼は何やら小型の機械を取り出した。
iPhoneをもう一回り大きくしたような代物だった。

「何それ?」

「あ、これはGPS付きのナビだよ。・・・うん、この道で合ってるな。」

聞いてみたら、案の定、風俗のお店を探し出すためだけに、
このナビを買ったというのだから。ヤンは本物だ。

こんなに真剣な顔して、紙とナビを交互に覗き込んでいる男が、
まさか風俗狂いのド変態だとは、誰も思うまい。

しかもヤンは、私との待ち合わせまでの3時間ぐらいの間に、
既に別の店で、一発ヤッてきてた。恐るべし。

そんなこんなで妙に感心しながら歩いていると、
彼がいろいろと話しかけてくるわけだが、その話題が全て風俗。

たぶん、普段はこういう話にノッてくれる旅人に出会わなかったのだろう。
ヤンは嬉々としていて、「とにかくエクアドルは安い」を5回以上言ってた。

私も全く興味が無かったが、「リアリー!?」って5回以上言った。

しかも彼は、お金さえ貯まれば、とにかく行ったことの無い国に行って、
ひたすら新しい風俗嬢を探し求めている、

ある意味、モンスタハンターの具現者。

この人のプレイ時間は、何千時間オーバーなんだろうか。
たぶん、ものすごいレアな素材とか持ってるんだろうな。
ナルガクルガとか簡単に倒すんだろうな。

世の中は広い。

恐らく男の性欲が最も高いと思われる14歳(中学2年生)の時期、

私は自分で自分のことを「エロい、エロすぎる」と妙に心配していたが、

高校卒業したあたりから、世の中にはもっととんでもない変態がいるのだと知り、
むしろ自分の小ささに泣いたぐらいだが、

その私が到底敵わなかった、歴代のド変態どもを、軽く凌駕する、
世界ランカーが目の前にいる。

許されるなら、一緒に写メとか撮って、

ツイッターで、写真つけて「なう」とか言いたい。

風俗
街についたので、ヤンと一緒にブラッと一周してみた。
そういえば、どういう店に入るのかを決めていなかったのだが、

聞いてみると、彼は酒を飲まない。
・・・というかお酒なんぞに金を使いたくない。そんな金あったらプレイ代に使う。

もうここまで来ると、本当にすごいとしか言いようがない。

すごい、すごすぎる。

だけど、この感じはなんなんだろう。
100%の無垢な気持ちで「すごい」と言えない、この感じ。

・・・

ゲーセンの音ゲーで、オタクっぽい兄ちゃんが、
鬼のような速さの曲を恐ろしく正確に叩き分けてて、

その周りに見物客とかすげー集まってて、注目されてる中、
最後の一音符を、バシーン!って叩いて、

言うなれば、会社でPCのキーボードをやたらバシャバシャ打ってる人が、
最後のエンターキーを中指でパシーン!て、やたら強調して打つような、

麻雀でもやってんのか、っていうぐらいの押し付けがましいキメ。

そして、そんだけキメといて、見物客が「おぉぉ~」ってどよめいてる中、
曲が終わった瞬間に早足で立ち去る、っていう。

あのシーン。

この人、

この情熱をもっと別のことに活かせたら、きっとすごい人になるのに。

って思わざるを得ない、あのシーンを思い出した。

たぶん野球だったらイチローみたいになってると思う。
実際、10年連続200本打ってそうだしな、ヤン。

そんなことを考えながら、振り返ってみると、

ヤンは私を見ながら、真顔で言った。

「パゥッ!パゥッ!」

ヤン。

こいつ、大物に

な ら な い 。

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