深夜1:38、大佐はやってきた。
最終日、後ろ髪を引かれる思いで、サパを後にして、
駅の近くのレストランで夕食を済ませたあと、
夜9時発の寝台列車でハノイを目指す。
寝台列車は、1部屋に2段ベッドが2つあり、計4人が寝る。
私は片方の2段ベッドの上。
こういう形の寝台列車で言えば、下段の方が色々と楽で良いのだけど、
席は自動的に振り分けられてしまうので、まぁ仕方ない。
上の段は、昇り降りが面倒くさい上、
エアコンが直撃するので、結構寒い。
まぁでもそれは良しとする。
旅をしていれば、希望通りにならないことはいくらでもある。
サパではトレッキングなんかで、結構動き回ったから、
体に疲れが溜まっているだろうし、早めに寝るとして、夜10時に消灯。
行きの列車では、揺れに馴染まず、寝にくいと思っていたものの、
人間の順応性というのはすごいもので、
今となってはもはや何の違和感もなく、すんなりと睡眠に入ることができる。
ぐっすりと。
それはもうぐっすりと。
ノンストップで朝まで。
そして、目が覚めた。
眠い目を擦りながらiPodのスリープを解除すると、時間は深夜1:38。
朝じゃないじゃないか。
まぁでもちょっと目が覚めるぐらい、よくあること。
特に気にもせず目を瞑るが、
ちょっとお腹がすっきりしないので、トイレに行く。
私は何の心積もりもしていなかった。
このタイミングで大佐がやって来るなんて。
親愛なるゲーリー大佐。私は親しみを込めて、あなたを大佐と呼ぶ。
いや、親しみを込めるなら、ゲーリーちゃんとかの方が良いだろうか。
いや、もはやそんなことはどうでもいい。
そんな細かいことはもはやどうでもいいフェイズに、私は突入している。
フェイズ5。
フェイズ6はすぐそこだ。
海外に来て、お腹を壊す人達は沢山見てきた。
だけど私はいつも問題なくやり過ごすことができていて、
まるで大佐には永遠に会わないかと思っていたのに。
そんな甘い考えは見事に破壊してくれた大佐。
大佐、ありがとう。
あなたはきっと私に試練を与えているのですね。
だけど、私に試練は要らないぞ、大佐。
それから朝5時にハノイに着くまでに計4回トイレに行き、
それはもう見事なまでの、滝のような(以下省略
もう何ていうか、「プリッ!」とか、
そういう漫画とかでも使えそうなコミカルなサウンドはしばらく無縁というか、
絶縁状を叩きつけられたような、この孤独感。
特に海外においては、トイレに紙が無いことが日常ゆえ、
自分のバックパックの中に紙が残っているかどうか、
常に注意を払っていなければならないという、このスリル。
はっきりいって、こんなスリルはいらないぞ、大佐。
何とかかんとか、ホテルまでたどり着いたあと、
空港までのタクシーを呼んでもらうことにした。
ちょっと高くつくが、もはやそんなことはどうでも良い。
ホテルには、数日前、ホテルの朝食の時に話した、
アメリカ人の女の子がフロントに座っていた。
ホテルのスタッフの1人は彼女のことをとても気に入っていて、確かに笑顔のかわいいキュートな女の子だった。
彼女は私と同じように、サパから早朝にハノイへ戻ってきていて、
ホテルのフロントで、インターネットして時間を潰していた。
これは絶好の機会なので、サパでの話などをしていたのだが、
どうやら大佐は今回かなりの長期滞在をされるご様子で、
またもや私をトイレへ誘う。
もうちょっと空気を読もうね、大佐。
床に布団を引いて寝ているスタッフを避けながら、トイレに入り、
作業を開始する。
ピチャピチャと音が立ってしまうわけだが、
まぁ早朝ということもあって、他に何の音もしないもんだから、
はっきり言って丸聞こえになる。
だけどまぁ、これは「小」にしか聞こえないんで、オッケーでしょう!
そう。
今の私にはそういうポジティブテンションしか選択肢がない。お察しいただきたい。
一通り音が響き渡ったあと、静かに物事は終着したかに思えた、
次の瞬間、
ブゥー!!!
もう、ブゥー!!!っていうか、
こういう次元になると、どうやって活字で表して良いか分からないぐらいの、ダイナミックな音なわけです。
そう。
そしてこちらの音も、漏れなくフロントに座っているキュートな女の子に伝わっているわけです。
もうその瞬間から、キュートとか、女の子とか、もうそんなことはどうでも良くて、
はっきりいって、開き直りの境地というか、
そういうのも通り越して、逆ギレに近い感じの心境なのです。
大佐ぁぁーー!!ゴラァーー!!
この旅で初めて日本に帰りたいと思った。
その後も空港着いて、気分が悪くなって、散々吐いて、
バンコク着いてからも、ホテルでさらに吐いて、
もう上と下から、ありとあらゆるもので出し尽くしてしまって、
私が60歳で定年したあとに当てる予定だった、ロト6の運まで出てしまったんじゃないかと心配になるぐらい、本当に全てが出てしまった。
もう本当に勘弁。