流れ着いた先は鬼ヶ島だった。 その壱

イタリアの港町バーリの宿での話。

バーリの宿にチェックインして、案内された部屋は、男女混合8人ドミトリー。

私が部屋に入った時、少し離れた位置のベッドにおばちゃんが寝ていた。髪は白髪で、年齢はたぶん50歳ぐらいだと思う。

その日はチェックインの時点で夕方だったので、外に出る気力もなく、明日以降の予定を練るべく、パソコンと向かい合っていた。

その時から何だか変な感じはしていた。

いや、何のことかといえば、そのおばちゃんのことなんですがね。

何の前触れもなく、「フフフフ、ハハハハ」みたいに笑い出すんですよ。

え?って思って、おばちゃんの方に目をやると、寝てる。

うーん、変な寝言だなぁ、なんて思いながら気にせずにいたんです。

それからしばらくして、おばちゃんが起きたんで、まぁドミトリーでよくあるような会話をしてたんです。

「どこから来たの?」とか「ここにはどのぐらい滞在するの?」とかね。

まぁハッキリ言って、ごく普通の会話ですよ。旅人同士なら、誰しもが話し合っているような内容。

ところが、おばちゃんはここで何故か異常なまでに私に親近感を抱き、色んなことをカミングアウトしはじめたんです。

 

・職業は画家、作家、作曲家など。
・旦那が自殺した。
・両親も亡くなった。
・身寄りが居ない。
・2階の住人が嫌がらせをしてくる。
・向かいの住人から監視されている。
・ぶっちゃけ精神的に病んでいる。
・毎晩「2本の指が目に突き刺さる」幻覚が見える。
・涙が止まらない。
・人を殺したい時がある。けど捕まりたくないからやらない。

ディープすぎるって。

 

何より、

・人を殺したい時がある。けど捕まりたくないからやらない。

ってのが、デンジャーすぎる。

 

あと、話をしている時に、例えばこのおばちゃんは犬を見るたびに、「私は動物が大嫌いなの?そう思わない?」って言ってくるんですが、

正直、全然そう思わないし、動物結構好きだし、猫か犬かでいえば犬派だし、否定する余地がない。それで私も、うーんどう返答すっかなぁ、という感じで、答えあぐねて「あー、はぁ。」みたいな顔をするんですが、

そうするとおばちゃんが、急に真顔になって、何かを待っているような顔になるんです。

私の予想だと、たぶん、「うん、動物なんて死ねばいいよね!」ぐらいの、勢いのある賛同を待ってるんだと思うんですが、いかんせん、賛同しかねる内容なんでこちらも沈黙を決め込む。

この、どうにもならない真顔タイムが、大体5分に1回ぐらい訪れるので、そのたびに私はコンピュータがフリーズしたような、うんともすんとも言わない、「無」の顔で切り抜けてましたよ。

 

賛同もできないけど、否定もできない。

・人を殺したい時がある。けど捕まりたくないからやらない。

こんなこと言ってる人の意見を否定できるはずがない。私だってまだ生きたい。

 

言ってなかったけど、このおばちゃん、寝てる時が基本半裸なんで、シーツに体を包んで、というか、ちょっと前を隠して程度で、話しかけてくる。

おっ○いとかね、もうたぶん、見えるの?見えないの?どっち?!みたいな状態で、けっこう瀬戸際。

見ようと思えばたぶん見えちゃうんだけど、まぁ絶対見ないよね。この辺は武士の意地っていうかね。

ここでも、「無」の顔で通してみた。そろそろ無の境地、開拓できてきた気がする。

いやまぁ、そんなこんなで、ヤバイ人に掴まっちゃったなぁと思ってたんですが、そこに追い討ちをかけるように、おばちゃんが、

「私お腹減ったわ?アナタは?どこかで一緒に食事しましょ!」

なんて言うもんだから、「アイムフル(満腹だ)」って即答しちゃいましたよ。

お腹すげー減ってたけど。ここで腹が鳴ったら私は確実に首を鎌で切り落とされる気がする。

おばちゃんはものすごく残念そうに部屋を出て行ったから、そのドアが閉まった閉まってないかぐらいのタイミングで、私は高速で寝た。

この時ばっかりは、のび太の世界記録抜いた気がする。

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