お母さんより (下)

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私は東京で運良く大企業に就職できた。母はそれをとても喜んだ。

消えかけていた絆を、私はやっとたぐり寄せることができたような気がした。

最初こそ紆余曲折あったものの、東京に来て7年以上が経ち、まっすぐ進みはじめた人生だった。

なのに私は、会社を辞めて、世界一周という選択をした。

世界一周に行くことで、私の母にとっての安心(=安定した状況)をまた壊してしまった。

私には壊している感覚など毛頭なかったのだが、それは理解されなかった。これ以上心配をさせるなと。そういうことなのだと思う。母親は安定を望んだ。それはその通りだとも思う。女手ひとつで育ててくれた母親に対して、本来私も安心を与えるべきなのだ。

私が仕事を辞めて世界一周に行くのは、ただの遊びではない。今後の人生に向けての、ステップアップだと思っている。もちろん遊びの部分もある。遊びは遊びで人生の糧になる。真面目なだけが正解ではないと思うし、世の中を見渡せば実際にそうなのだから。

私が東京で大企業で働いてみて感じたのは、結局人は学歴でも仕事のキャリアでもなく、何を考え、何を経験したか、だと。役職や給料に見合わない人を何人も見てきた。もちろん、それに見合う以上の人たちも見てきた。その上で強く思ったのは、考えずに毎日繰り返すだけの人生をしていてはダメだということだった。やってみたいと思えば何でもやってみるべきで、それこそが私にとって、理想の私を作る核だと悟った。

私にとっては、母親を安心させることができる未来のための選択だった。見せかけだけの安心ではない未来のために。

私が想像していたよりも遥かに、説得は困難を極めた。

大学の時を思い出した。

あれを繰り返してはならない。私は強く誓った。
そうして私は世界一周をあきらめかけた。

「分かった。行くのはやめておく。」と伝えた。

 

 

しかし、しばらくして、

母親はこの旅を理解してくれ始めた。

え、この前までのは何だったの?・・・というぐらい既に納得していた。

大学の時と違うのは、私が相手の話を聞き、譲歩する余裕を持っていたことだろうか。母親も恐らく少々意固地になっているところがあったみたいで、ゆっくり落ち着いて考えてみれば、まぁ本人の気持ちを尊重すべきと判断してくれたようだった。

考えてみれば、そもそも私はもう大人なのだから、海外旅行ひとつ行くのに親の許可など必要ないようにも思う。

だけど私はどうしても母親に対して後ろめたい気持ちで旅立ちたくはなかった。他の人には分からないかもしれないが、そういう思いが強かった。

だから理解してもらえて、本当に良かったと思う。そして今はもう、以前のように電話で笑いあっている仲だ。

先日、そんな母親から手紙がやってきた。

元気にしていますか?
風邪は治りましたか?
朝晩寒くなってきたので気になっています。
何だか久しぶりに便りしている気がします。

いま、仕事の引き継ぎで忙しいですか?
この先の人生はあなたの人生ですし、親ですから気にはなりますが、自分を信じて行っておいでね。

ホームステイとかしないの?
お母さんには分からないけど、考えているでしょうからね。

世の中不景気ですが、まず健康が何より。
保険のある間に歯の検診にも行ってた方がいいかもね。
会社辞めてから今までの住民税とか、今年1年分が来年に来るからね。
知ってることばかりかもね。

お母さん今日から風邪気味です。
ひどくならないように早く寝ますね。
新型インフルエンザがこれからまた流行する季節になりました。
小さな子供や若い人が人と接する機会が多いから、かかりやすいのかもね。

お母さんが元気でいたら、あなたも安心して外国に行けるから、10年ぐらいは元気でいたいです。
心配しないでいいよ。安心して行っておいで。
ただ何かの時には連絡出来るようにしておいて下さいね。人間いつどうなるか分からないから。

先日も、近所の仲良いおばちゃんが、急に具合悪くなり、救急車で入院しました。10日間ぐらいで退院していましたが、家の中に女の人がいないと、ゴミの家みたいになっていましたよ。

何かあったら、お母さん少しは貯金あるから、困ったら言いなさいよ。
日頃は自立してほしいけど、親子だし、家族ですからね。
お姉ちゃんも気にかけてますよ。

久しぶりに書いたらまとまりのない文になりました。
風邪気味の時に書かないでいいのにねー。

じゃ、又ね。

お母さんより

「親っていうのは、いくつになっても子供が心配なのよ。」

私の母親がいつもそう言っていた。

何ということもない、ごく普通の手紙。
だけど、私にとっては、母親というかけがえのない存在を感じる手紙。

また笑顔を見せられるように、この旅からは必ず元気な体で帰ってこよう。

また笑顔で会えるなら、きっとそれだけで私は幸せ者だ。 そう思った。